AIに仕事を奪われる医者たち

人間の敗北の歴史

人間はこれまで様々な分野でAIに敗れ去ってきました。
1994年:チェッカー世界チャンピオン敗れる
1997年:チェス世界チャンピオン敗れる
2013年:将棋トッププロ敗れる
2016年:囲碁世界チャンピオン敗れる
2017年:ポーカートッププロ敗れる
https://news.microsoft.com/ja-jp/2019/08/19/190819-evolution-and-history-of-game-ai/
https://analysis-navi.com/?p=616

ディープラーニング

近年のAI分野で最も目覚ましい進歩はディープラーニングの手法です。AlphaGoが人間のトッププロよりも強くなったのもこの手法によるものです。ディーブラーニングはわかりやすく言うと、元データを階層を重ねながら圧縮していきます(JPEGとかの画像圧縮と同じです)。そして、圧縮すると最後に特徴量という変数が残ります。それをもとにデータをパターン認識する技術です。もともと、人間の脳は6層構造になっていて(生理学で学びましたよね)、シナプスの階層によりパターン認識しています。結局は、元データに対するパターン認識を行うということでは、AIも脳のシナプスもそこまで変わりはないのかもしれません。https://bit.ly/3uCmRaG

診断学とパターン認識

診断学とは、与えられた情報をもとに患者さんが抱える疾患を診断する学問の事です。つまり、症状、臨床所見、検査所見というデータから診断名を導き出すという作業です。つまりはAIが最も得意とする、パターン認識です。放射線画像診断においては、AIはおそらく人間を凌駕していると思われます。https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1361841517301135?via%3Dihub

また、少し前のニュースですが、医者が寄ってたかって診断しても見抜けなかった珍しいタイプの血液疾患「2次性白血病」をIBMのワトソンが10分で診断したというのも印象深いです。https://www.sankei.com/article/20160805-OGVLJRBJRRPKJGOQBVDGCDYIZU/

プロ棋士はいなくならない

AIのパターン認識がすごいのはわかりました。では、AIによって仕事を奪われるのはどんな人たちでしょうか。おそらく、プロ棋士は未来永劫いなくなることは無いと思います。なぜなら、我々は人間同士の熱い戦いを見たいのであって、AI同士が戦う試合など見たくないからです。AlphaGoの星にいきなり三々に打ち込む手の連発とか気持ち悪くて見ていられません。https://godb.shogidb2.com/ja/game/players/AlphaGo%20Zero

医者はいなくならないのか?

ところが、医者に関してはどうでしょう。人間が診断に悩み苦悩するさまをテレビで観戦したいという需要がどれぐらいあるでしょうか。ほぼ皆無でしょう。患者さんの願いはただ一つ、正しい診断を早く下してほしい。この一点です。AIが下した診断であろうが、人間が下した診断であろうが、正しい方が正義なのです。大規模な調査では大体5%程度の患者さんが誤診からの深刻な被害があるとされています。https://bit.ly/3rsDiVh

医者 vs レジ打ち

医者はとても高給取りです。レジ打ちの人たちは最低時給付近で働いています(誤解の無いように言いますが、わたしは職業に貴賤は無いと思っており、あくまでたとえ話として理解してもらえると嬉しいです)。AIはとても高価です、今のところは。そうなると、どちらの方が早くAIに仕事を奪われるでしょう。答えは簡単ですね、給料が高い方です。なぜなら、給料が高い人間をクビにできるなら高い機械を購入しても割に合うからです。

医者という職業はなくなるのか?

1983年、最後の電話交換手がその職業のキャリアに別れを告げました。https://www.nytimes.com/1983/10/12/us/goodbye-central-crank-phone-dies.html

同様のことが、医者にも起こるのでしょうか。おそらくそうはならないでしょう。なぜなら、医療行為には責任が生じるからです。一方電話交換にはほとんど責任は生じません(最後の電話交換手には悪いですが、電話が1回つながらなかったからと言って明らかな不都合がこの現代社会において生じるとは思えません)。

医者の数は10分の1になるだろう

医者という職業は確かになくならないでしょう。しかし、数は今よりずっと少なくなるはずです。エクセルが開発される前、大企業は大量の経理の人間を抱えていました。そろばんや電卓を打つのが早い人がもてはやされた時代があったのです。同じことが、医者の世界にも起ころうとしています。

わたしは、勤務医もしていましたからよくわかるのですが、入院患者さん(私は循環器内科医です)を同時に受け持てる数は20名が限界です。同様に、現在も外来診療は行っていますが1日に診察できる患者さんも150名程度が限界です。しかし、これにAIのサポートを加えればこの数は激増します。

入院患者さんについて言えば、点滴メニューを考えたり、看護師さんに指示出しをしたりなどなどの仕事が非常に多いです。それをAIが一手に引き受けてくれて、わたしは最終チェックをするだけというのならどうでしょう。おそらく200人は見ることができるでしょう。外来診察に関しても同じです。採血データ、臨床所見などがデータベース化されており、それらから最適な投薬内容と指導内容が選択されれば、おそらく1500人を1日で診察することは不可能ではないはずです。つまり、10分の1の医者の数で事足りるのです。

外科医は安泰なのだろうか?

それは、すべて内科医の話で外科医は関係ないと思ったあなた。そんなことはありません。外科の手術を思い出してください。パターン認識を使っていませんか。外科手術は基本的に、切っていいところを判断する、切る、層をはがす、最終的に目的物を切除するという手順になっているはずです。再建手術にしても、その逆順を行っているだけで大した違いはありません。そんな作業、機械ができないはずがありません。わたしは循環器内科医なので、この分野の事を書きますが、一昔前までは不整脈がどこから出ているかは本当に職人芸で当てるしかありませんでした。しかし今では、3Dマッピング技術で、バカでもわかるようになっています。しかも、外部からのガイドでアブレーションカテーテルの先端がどこにあるのかも一目でわかります。本当に、1~2時間教えれば高校生でもできる手術になってしまいました。https://google-cartographer-ros.readthedocs.io/en/latest/

医者に未来はあるのか

それは、わかりません。わたしには2人娘がいますが、医者になれとは自信をもって言うことはできません。彼女らが、医者になるのは少なく見積もって17年後です。その時に医者という職業が今のまま残っているとは思えないからです。これからの医者の働き方は考える必要があります。今後どうしたらいいのか、迷っている方にはぜひ下記のWEBサイトが参考になると思います。チェックしてみてください。

この記事を書いた人

坂口海雲