なぜメトホルミンで乳酸アシドーシスが起こるのか

一番重篤な副作用:乳酸アシドーシス

 メトホルミンを服用するうえで、一番注意しなければいけないのが「乳酸アシドーシス」です。しかし、乳酸アシドーシスと言われてもなんのこっちゃという人が大半なのではないでしょうか?

 なので、今回は乳酸アシドーシスとはいったい何なのか、なぜメトホルミンで起こるのか、そしてどうすればいいのかを解説したいと思います。

アシドーシスとは

 まず、聞きなれない言葉アシドーシスから始めましょう。アシドーシスとはアシッド(酸)+オーシス(血症)という言葉です。つまり、血液が酸性になる状態のことを指します。

 血液は弱アルカリ性で、pH7.35~pH7.50と非常に狭い範囲でpHが保たれています。何らかの原因で、血液のpHが7.35を下回った状態がアシドーシスです。そして、アシドーシスが進むと細胞損傷を引き起こすことが知られています。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC137247/

呼吸性アシドーシスと代謝性アシドーシス

 アシドーシスには、代謝性と呼吸性の2つがあります。まず呼吸性アシドーシスから説明します。読んで字のごとく、呼吸のせいで血液が酸性になることです。ほとんどの原因は肺にあります。何らかの原因で、肺に損傷が起こり呼吸が障害されると、二酸化炭素濃度が増えます。二酸化炭素は血液に溶けると酸性になるので、アシドーシスが発生します。https://medlineplus.gov/ency/article/000092.htm

 一方、代謝性アシドーシスは様々な原因が考えられます。酸性代謝産物の増加、腎臓からの酸の排出障害、毒物による中毒などです。そして、乳酸アシドーシスは酸性代謝産物である乳酸が体内に蓄積することで起こる代謝性アシドーシスに分類されます。https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMra1309483

乳酸アシドーシスのタイプ分類

 乳酸アシドーシスにはコーエン・ウッズ分類というものがあり、タイプA~B3まで4つ存在しています。
 タイプA:血流障害などにより組織の酸素が著しく低下した場合(重篤)
 タイプB1:肝不全などの基礎疾患
 タイプB2:薬または中毒
 タイプB3 :ピルビン酸デヒドロゲナーゼ欠損症などの先天性代謝異常症
https://derangedphysiology.com/cicm-primary-exam/Chapter%20801/classification-systems-lactic-acidosis

 メトホルミンによる乳酸アシドーシスはこの中のタイプB2にあたります。

乳酸アシドーシスの症状

 乳酸アシドーシスは前述したように代謝性アシドーシスです。代謝性アシドーシスで起こりうる症状すべてが出現する可能性があります。主なものを列挙すると以下のようになります。
・ 頭痛
・ 錯乱
・ 疲労感
・ 震え
・ 眠気
・ 羽ばたき振戦
・ 昏睡:場合によっては大脳の機能障害をきたします
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0733861909000589?via%3Dihub

メトホルミンで乳酸アシドーシスが起きるわけ

 そもそもメトホルミンは、肝臓での糖新生を抑制することで血糖値を下げる作用があります。糖新生とは、グリコーゲン(糖)以外の物質から肝臓などで糖を作り出すことです。糖新生に使われる物質はグリセロール、アラニン、グルタミンそして乳酸です。この4つで糖新生の原料のうち90%以上を占めています。https://www.researchgate.net/publication/12117257_Renal_Gluconeogenesis_Its_importance_in_human_glucose_homeostasis

 つまり、メトホルミンを服用すると肝臓での乳酸を用いた糖新生が減少します。その結果体内の乳酸濃度が上昇します。しかし、通常は腎臓から乳酸が排出されるので、乳酸アシドーシスをきたすことはほとんどありません。メトホルミンで乳酸アシドーシスが起きるのは著しく腎機能が障害されている状態の時がほとんどなのです。https://meded.lwwhealthlibrary.com/book.aspx?bookid=1765

メトホルミンは安全なのか

 結論から言うとメトホルミンは非常に安全な薬だと言えます。メトホルミン関連の乳酸アシドーシスは10万人当たり2~9人で、これはメトホルミンを全く服用していない人に起こる乳酸アシドーシスの確率と同程度です。https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs00125-008-1157-y

 しかし、造影CT撮影時に用いる血管内造影剤注射のような一過性に腎臓に負担がかかる場合は注意が必要です。日本国内では、造影CTを行う際にはメトホルミンを中止することが推奨されています。http://www.radiology.jp/content/files/994.pdf

 また、大量服薬による毒性も調査されており、致死量は通常容量の80倍以上です。つまり、一気に80錠服用すると死亡する場合があるということですが、80錠という途方もない量なので1日1~2錠服用する分には全く問題ないと言えるでしょう。https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1570023209006655?via%3Dihub

メトホルミン外来

 このように安全に使用することができ、比較的安価な薬であるメトホルミンは老化治療薬としても注目を浴びています。しかし、日本国内では糖尿病治療薬としてしか保険適用されていないため、通常のクリニックに行っても処方してもらえません。FDAが老化治療薬として臨床試験を実施しているというのにです。このような状況を打破すべく、KARICHANクリニックではメトホルミン外来を行っています。健康保険は使えない自費診療になりますが、ご興味のある方は下記を参考にしてください。

この記事を書いた人

坂口海雲